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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)1697号 判決

控訴人(被告)

宮田登志雄

ほか二名

被控訴人(原告)

小川勝治

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は「原判決中、控訴人ら敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

当裁判所は、被控訴人の本訴請求は、原判決認容の限度において理由があり、その余は失当として棄却すべきものと判断するものであつて、その理由は左記を附加、訂正する外、原判決の理由の説示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決八枚目表一行目からその裏二行目までを次のように改める。

〔証拠略〕を綜合すれば、控訴人宮田立志郎は同宮田登志雄の父であつて、本件事故当時肩書西根町役場の助役をしていたものであるが、本件事故の五日後である昭和四三年九月一七日二戸警察署において取調警察官に対し「理由はどうあれ、自動車の運転者としては、当然歩行者に対し十分注意すべきで、相手方には親として申訳ないことをしたと思つております。相手方とまだ示談はできていないが、治療費等については、息子ともよく相談して、できる限り保障してあげるつもりです。」と述べており、又本件事故の翌日、盛岡市内の旅館において、被控訴人の父小川一夫を介して被控訴人に対し、再三「けがをさせて申訳ない。迷惑をかけたから、私が責任をもつてやります。私は西根町役場の助役や家庭裁判所の調停委員をしているので信用して下さい。」と述べ、更に本件事故の一〇日後である同年九月二二日、被控訴人の入院先である岩手医大附属病院において被控訴人に対し真摯な態度で「息子は無収入ですが、私が責任をもつから、外のことは心配しないで治療に専念して下さい。」と述べたこと、そこで被控訴人は控訴人立志郎が治療費は勿論、本件事故によつて被つた被控訴人の全損害につきその賠償を保証したものと諒解して、同控訴人の右申出を承諾したことが認められる。右認定に反する前記同控訴人の供述は、前掲各証拠と対比し、にわかにこれを措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。以上認定の事実によれば、控訴人立志郎は控訴人登志雄が惹起した本件事故につき、社会的地位のある親としての責任を感じて、本件事故後間もなく、被控訴人に対し控訴人登志雄の被控訴人に対する本件事故による損害賠償債務につき保証する旨を約したものと認めるのが相当である。もつとも、〔証拠略〕によれば、右保証条約の成立当時、主たる債務者である控訴人登志雄の具体的な損害賠償額の範囲については、当事者双方とも、いまだ十分な認識がなかつたことが認められるが、右事実の存在は何ら前記認定の妨げにはならないものというべきである。

二  原判決八枚目裏七行目「同田中幸一」とあるを「同田口幸一」改める。

三  原判決九枚目表九行目「原告」の次に「(当時、同人は右道路補修工事の現場監督であつた)」を加える。

四  原判決九枚目表一一行目「突然原告が被告車に注意することなく」の次に「反対側の車線に倒れていた片側通行止の標識を立て直すべく」を加える。

五  原判決九枚目裏一〇行目から一〇枚目表三行目までを次のように改める。

以上認定の事実によれば、被控訴人が加害車(控訴人登志雄の運転する車)に注意することなく、その直前で道路を横断し、更に突如引き返そうとした行為は道路交通法第一三条に違反するものであるのみならず、片側交通という変則且つ渋滞の恐れある道路工事区間において右道路工事の現場責任者として右区間の交通の安全及び円滑を保持すべき職責を有する被控訴人が、反対側の通行止の標識を直すためとはいえ、整理員の指示に従い進行中の加害車の直前を突如横断したり又後戻りしたりした行為は、一般の歩行者より更に大なる注意義務を怠つたものというべく、右過失も本件事故発生の一因をなしたことは明らかである。ところで他方、本件事故は控訴人登志雄が自動車運転者として走行中、前方を注視し、前方に人が立つているときはこれに衝突しないよう減速すると共に警笛を鳴らして自動車の接近を告知し、それでも気がつかないときは停車するなどの措置をとる義務があるのに、これを怠つたために発生したものであることは当事者間に争いがない。そうとすれば、本件事故における被控訴人の過失は、彼此勘案し、少くとも三割を下廻らないものと認めるのが相当であつて、右過失は損害額の算定にあたり当然斟酌すべきものである。

よつて、以上と同旨で、被控訴人の本訴請求中、控訴人ら各自に対し金二、二七〇、〇〇一円及び内金二、〇七〇、〇〇一円に対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四六年九月一二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分を認容し、その余を失当として棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項によりこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法第九五条、第八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山孝 古川純一 岩佐善巳)

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